ヒグマとオオカミ。ときどき獣たち
あるところに大きなヒグマがいました。
大きなヒグマは仲間を集めて、この厳しい環境をみんなで生存していく道をとる事にしました。
そのためには、他の生き物達に対して、圧倒的な力を誇示して敵のいない状態を作ろうと画策しました。
大きなヒグマは、信頼できる3頭の熊を従え、徐々に勢力を伸ばしていきました。
大きなヒグマからの絶大な信頼の元、3頭の熊たちは、様々な肉食獣を支配下に加えました。トラ、ライオン、ヒョウ、チーター、ジャガー、ハイエナ、キツネなどなど。
「圧倒的な力を持った群れを作るぞ」と大号令をかけて。
それからしばらくして、その地域で有名な群れになっていった頃、2頭のオオカミが仲間に加わりました。
2頭のオオカミは「自分達はヒグマには絶対敵わない」と自覚しているため、ヒグマとその部下の3頭の熊に忠実に従い、一生懸命この群れに対して貢献してきました。
ただ、2頭のオオカミは声にこそ出しませんでしたが、
ずっと違和感を感じていました。
その違和感は「なんかこの群れの獣たちは、すぐに死んじゃいそうな獣が多い気がする」というものでした。
例えば、3頭の熊の言う事に対して口答えするキツネを見た時に。
例えば、群れのトップのヒグマが獲物を追ってる邪魔をするライオンを見た時に。
例えば、3頭の熊の指示を無視して勝手に狩りに出るチーターを見た時に。
そして、最大の違和感は「この獣たちの近くに行くと、なんとなく羊のニオイがする」というものでした。
オオカミ達は、ずっとこの違和感の意味がわからずにいました。
「なんでなんだろう?」「なんでだろうね?」そんな話を、こっそり2頭で繰り返していました。
とは言え、毎日この獣の群れで暮らしている中で、徐々に気づいてきたことがありました。
どうやら、2頭のオオカミとヒグマを除くそれ以外の獣たちとでは、使っている言葉の意味が微妙にというか大きく違っている事があるようだと。
「食べ物」について話をしてるつもりの時に、オオカミは『草食獣の肉』についての話、ライオンは『道端の草』についての話をしていたり。
「群れの中の役割」について話をしているつもりの時に、オオカミは『狩りをする時に風下から近づく事』についての話、トラは『広い草原を走る事』についての話をしていたり。
「今日の成果」について話をしているつもりの時に、オオカミは『いかに苦労せず鹿を仕留めた』という話、チーターは『結局逃げられたけど、あの時は全員でどれだけ大変な想いをしたか』という話をしていたり。
こんな事が日常的に続いていたある日、オオカミ達は気づいてしまったのです。
3頭の熊とその他の獣たちの4本の脚のつま先が『ヒヅメ』だったことを。
熊だと思っていた3頭も、トラやライオンやその他の獣だと思っていた皆は、それぞれの動物の毛皮を被っていただけの『羊』だったということに。
あの時感じた羊のニオイは、本当の羊のニオイだったということに。
そして、どうやら、皆は自分たちの事を『本当の肉食獣』だと思っているという事に。
強い群れの中の強い獣だと自覚しているという事に。
更に、あの大きなヒグマも皆の事を『本当の肉食獣』だと思っているんだという事に。
オオカミ達がこの群れに入る時に聞かされた「圧倒的な力を持った群れになる」という話は一体なんだったんでしょうか。
羊とオオカミでは話がかみ合うはずがありません。
そもそも、食べ物の定義が違うに決まっています。
すぐ死んでしまうと感じたのも無理はありません。
でも、大きなヒグマの話に共感できたのは、オオカミ達以外で唯一本当の肉食獣であるヒグマが言っていた言葉だったから。
今にして思えば、みんなが日々過ごしていた場所は、頑丈な柵に囲まれ豊富に牧草が生えた面積の広い牧場だったんだという事に。
さて、その後、2頭のオオカミはどうなったんでしょうか?
きっと、あの群れからは離れて、本当の仲間を見つけて、毎日オオカミらしい暮らしを楽しんでいるのではないでしょうか。
大自然の中で生き抜いていけるオオカミは、本当の意味で自由なんだな、きっと。
オオカミはやっぱり牧場の中で大人しく生きていく事に楽しみは見いだせないんじゃないかなと思います。
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