三十六計逃げるに如かず
電気人間としての症状を相談しに、朝、病院に行った。
「もしかしたら、治るのかも」
そんな期待をしていたわけじゃない。
専門的な知識があるわけじゃないけど、今までにたくさん怪我をしてきたから、自分の体の状態はなんとなくわかる。
不注意なのか、不摂生なのか、酷使なのか、事故なのか。
原因が何なのかわからないけど、今の症状とこれから出るかもしれない症状について、病院の先生から簡単に話が出た。
話ぶりからすると、俺と同じような症状の人はこの病院にもたくさん来るし、世の中にたくさんいるようだ。
所謂そこらへんによくある話。
そして、この病院ではこれ以上できる事はない。
どうやらそういう話。
時間にして、2分程度。
診察のお代は、400円弱。
「まあ、そんなもんか」
待合室の中は、どんどん人が増えてきた。
見た目に分かる怪我をしている人とお年寄りが多い。
みんなどこか痛かったり不調だったりするんだろう。
外は日差しが強くて、天気はまあまあ良い。
世間は3連休の人も多く、道路は混んでいる。
早めに病院に行ったから、家に帰ってきてもまだ10時だ。
いつもと何も変わらない。
「仕方ないよね、起きちゃった事は」
納得というかなんというか、そう思わない事には、それこそ仕方ない。
だけど、心の中はウダウダ言いたい気持ちでいっぱいだ。
なんとかなると思ってたわけじゃないんだけど、なんともならないと思ってたわけでもなかったんだな。
「クヨクヨしたって仕方ないじゃないか。もっと建設的で意味のある時間を過ごそう。人生は有限なのだ。時間を無駄にしないで前向きにいこう!」
そんなスーパーポジティブで意識高い系な人が言いそうな事を考える部分も自分の中にある事は間違いないんだけど、今日はそれだと1mmも反応しない。
今日の俺には、こんなんじゃダメらしい。
とにかく何もしたくないし、何も考えたくないし、ただひたすら何も考えずにいられるようにしたい。
そんな時、俺に思い浮かんだのは一つだけ。
当然というか、他に無いというか、お酒の力を借りる事だ。
「逃げるの?」そう聞かれれば、「もちろん」と間髪いれず即答したと思う。
そんな気分で、昼間からビールとつまみを買い込んで一人宴会を開催した。
足を伸ばせるイスにどかっと陣取って、
半分寝転がったような姿勢で、
電話帳くらいの厚さがある『木村政彦外伝』を読みながら、
昼間からビールを飲み続けた。
暑くも無く寒くも無く快適な気温だ。
酔えば体の痺れも気にならない。
本を読んでいれば余計な事を考える暇が無い。
作者と登場人物達の熱い物語(と言っていいのかどうかわからないけど)が、
俺を夢中にさせてくれる。
ビールは美味いし、つまみも美味い。
不快な要素は何もない。
強いていうなら、本が重すぎるくらいだ。
分厚い本なので読んでも読んでも終わりが来ないのが嬉しい。
いつの間にか寝ていたようで、
気が付いたら夜の9時過ぎ。
ビールとつまみはとっくに無くなった。
本は読み終わっていない。
「最高でした!」
そんな高揚感がある一日の過ごし方じゃなかった。
でも、
「クソみたいな一日だった」とも思わない。
どうしようもない気分を紛らわすには、
ちょうど良い過ごし方だったんじゃないかなと今思ってる。
傍から見たら、昼間から酒飲んでるどうしようもない人間なのは間違いない。
でも、俺が今日一日どうしようもない気分でいた事は傍目には誰にも分からなかったはず。
どうしようもない×どうしようもない=どうにかなった
そんな感じで、ようやく折り合いがつきつつあるような気がしてる。
強い気持ち、強い覚悟、強い決意。
そういうモノで乗り越えられる事もあれば、
そうじゃないモノもあるんだという事が実感として分かった感じだ。
『逃げるは恥だが役に立つ』って言うのはこういう事かもしれない。
こうやって段々と、
グラデーションみたいにというか、
ちょっとずつ溶けていく感じというか、
「まあ、なっちゃったものは仕方ないよね」に成っていくんだろう。
これからもずっと闘っていく為に、
時々、適度に逃げていこう。
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