シオタの塩分過多な日常

シオタです。「しょっぱい自分が、塩分過多な毎日をどう過ごし、いかに楽しく生きていくか」がテーマです

シオタの拳 ~哀愁の還暦、哀愁の同行~

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事件は、毎日起きるのだ。

 

時は西暦20××年。

ここは、関東のとある地方都市。

そこで営まれる、とあるサービス業の会社の某店舗では、事件が毎日起きる。

これは、比喩ではなく、言葉通りの意味で。

 

俺はこの会社の中間管理職。

自分がいるこの店舗の管理を任されている。

それ以外にも、多店舗にいる部下たちをまとめて面倒みたりもする事もあるが、最近では、会社が俺に期待しているのが様々なトラブルシューティングだ。

トラブルシューティングというと聞こえはいいが、平たく言えば『社内の何でも屋』として、小さな事からとても細々した事まで全スタッフの相談(という名のどうでもいい面倒ごと)を引き受けている。

傍からどう見えているのか、皆の本音は聞こえてこないが、どんなに良く見ても雑用係のトップである。

たまたま俺の社内での役職名が係長なので、自嘲気味に『雑用係長』もしくは皮肉を込めて『特命係長』と自称している。

 

そんな『特命係長シオタ』の出番が、今日は、朝イチからやってきた。

俺の上司であるH課長(お局兼務・50代女性)から呼ばれたのだ。

 

H課長「あのさ、今日のミーティング一緒に参加してくれない?」

シオタ「(勘弁してください)一体どうしたんですか?」

H課長「今日はB店の店長が来て定例ミーティングする日なんだけど、どうもお客さんとトラブったらしくて。その話のヒアリングする事になってるんだけど、アタシ一人じゃちょっとね。アタシあの店長苦手なんだよね。ほら、アンタって『特命係長』じゃん。だからちょっと同席して欲しいんだよね」

シオタ「(めんどくさい事を押し付ける気満々なんですな)わかりました。」

H課長「悪いね。頼りになるな『特命係長』は!(上機嫌)」

シオタ「・・・(このあだ名って他人から言われると最上級のディスりになるんだなあ)」

 

そして、B店の店長が待つ会議室へ向かう。

そして、早速本題のトラブルについてヒアリングを行う。

内容を聞いて、びっくりした。

要約すると話はこういう事らしい。

B店の店長が特定のお客さん(まあまあのお得意様)に対して、それなりにあからさまな過剰サービスを常習的に行っていたが、今回だけそのサービスをし忘れてしまってお客さんが怒り出した。そして、「いつものサービスを何がどうあってもしてもらわないとだからな!(B店店長・談)」という事らしい。

ちなみにそのサービスというのが、うちの会社が何かを差し上げるとかではなく、うちの会社の取引先企業がやっている商売の中のとあるサービスを優先的に受けられるように取り計らっていたという内容なのだ。そして、この取り計らいには申し込み期限や細かいルールが設けられているんだけど、B店の店長が「今回だけこのサービスを申請し忘れてしまっていた」という事のようだ。

もちろん、ウチの会社が行っているサービスではないので、B店の店長を含めたウチの会社の誰か(仮にウチの社長だとしても)がどうにかできる代物ではないという事なのだ。

この内容だと、B店の店長が誠心誠意「ごめんなさい」をしてそのお客さんに勘弁してもらうしかやりようがないんじゃないかなと思ったし、H課長もミーティングの冒頭で同じような話をしていたので、俺に意見を求められた時にはこのままの見解を伝えた。

 

その瞬間に、予想もしなかった事が起きた。

 

なんと、推定60歳位のおじさんであるB店店長が、心の底から悲痛そうな顔をしてこう言ったのだ。

「私には難しいので、この件から降ります。後は、H課長なりシオタさんなりがそのお客さんに説明してもらって。私には無理です。」と。

 

これまで、数々の修羅場(その全てが誰かの尻ぬぐい案件)を潜り抜けてきた、この『特命係長』の俺でも聞いた事の無いセリフが飛んできたので、文字通り、ホントに文字通り数秒間フリーズしてしまった。

意識が戻ってふと隣を見ると、あの厚顔無恥で名高いH課長も同じくフリーズしていた。

そして、正面の席には、泣きそうな顔でうなだれている推定60歳位のおじさんB店店長。

「これが、真のカオス・混沌という状態なんだろうな。40数年生きてきたけど、こんな状況には初めて遭遇したぞ。人生ってまだまだ奥が深いなあ。あー、家に帰りたい(シオタ心の声)」

 

こんな事がしばらく俺の心を占有していたけど、とりあえず気を取り直して、ひとしきり話をして、結局のところ、まとまった対応がこんな感じ。

「本日の午後にお客さんのところへ、B店店長とシオタが二人で行って、改めて『どうにもできない』旨を丁寧に説明し、お客さんに引いてもらう」という事になった。

だって、仕方ないじゃない。

推定60歳位のおじさんに「私一人じゃ説明できません。どなたか一緒に来て下さい」と言われてしまっては。

 

と、ここまで書いて、これだけでも結構な事件なんだけど、この話はもちろんまだ続くのだ。

 

そして、諸々あって午後になった。

B店店長がアポイントを取って、お客さんに指定された待ち合わせ場所に、時間通りに到着した。

そして、B店店長と合流した。

 

さて、一体どんなヤバそうなヤツが相手なんだろうか。

B店店長の話からすると、これから会う相手は理屈が通じない相手のようだ。

それなら俺ができるのはただ一つ。

『ただひたすら事情を説明し、理を説いて、相手が折れるタイミングを見つける作戦』だ。状況から、これしかできる事はなさそうだ。

さて、長い闘いになりそうだな。

 

お、どうやらあれが今回の相手だな。

よーく顔を拝んどいてやるか。

あれ?想像よりまともそうな顔と佇まいだな。

でも、見た目じゃないって事だから気を引き締めていくぞ。

普段通りよりもほんの少しだけ誠実さと神妙さをミックスした空気を醸し出しつつ、挨拶をすませる。

あれ?挨拶の感じも普通、というか、感じが良い気がするな。

いや、でも、こんなことでごまかされないぞ。

さあ、いよいよ話が始まる。

B店店長「かくかくしかじか、この書類がうんぬんかんぬん、なんたらかんたら~」

あれ?なんでこの人、相手の顔も見ないで書類の説明始めてるんだろ。

相手がなんだか怪訝そうな顔してるな。

B店店長「ですから、あーだこーだ、どうたらこうたら~」

いや、もう長いなこの人の御託が。

いーや、割って入って、本題をさっさと済ませよう。

シオタ「あの、ここの説明をまずさせていただきますね。今回の件は、かくかくしかじか、こういう事でいつも店長がしていたというサービスが今回はルール上、適用できないという事なんです。今回は、この件につきましてご迷惑おかけして申し訳ありませんでした。」

お客さん「今回は難しいって事なんですよね?店長さんから聞いてます。それは仕方ないと思うんですが、でも、今回は難しいっていうのを昨日の夕方いきなり言ってくるっていうのは、どうなんですかね?それは御社の方も確認不足だったんじゃないですか?ねえ、店長さん?」

 

え!!どういう事?何の話だこれ?B店店長からはこんな話聞いてないし、そもそもこのお客さん、事情を理解してるじゃん!!全然クレーマーでも何でもないのでは???

 

そうなのだ。

このお客さん、実は只の被害者だったのだ。

B店店長がこれまで勝手に配慮をして、サービス対応してくれていて、今回も「いつも通りやっておきますね」とB店店長が自分からこの話をふっておいて、どうやら、その手配をするのを忘れていて、それをついこの間思い出して慌てて手配しようとしたら、ルール上もう手配は間に合わず、結果、昨日の夕方にこのお客さんに「今回はダメでした」という連絡をしたというのが、事の顛末のようだった。

 

この話の中で、この事がハッキリ見えてきたので、ここは特命係長として「最終究極奥義を使うしかない!」と判断した為、ここ一番でしか使う事の無い奥義を炸裂させてきたのだ。

 

シオタ神拳最終奥義

 

その名も『無想謝罪』

 

説明しよう!

この最終奥義『無想謝罪』とは、一切の雑念を捨て、誠心誠意、ありとあらゆる想念を『謝罪する』この一念だけに注ぎ、粉骨砕身謝罪をするのだ!

そして、この奥義の前に、この謝罪を受け入れずに立っていられた人間は、未だかつて、存在しないという幻の奥義なのだ!

 

 

・・・

 

 

そして、今日もウチの会社に平穏が訪れたのだ。

今日も、いつものように、あの男が活躍していた事は誰も知らない。誰も気づかない。

 

ありがとう『特命係長』!

君の活躍は、きっと誰かがどこかで応援をしているだろう。

 

特命係長の闘いは、この会社が存続する限り終わりが無いのだ。

 

to be continued...

 

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