シオタの塩分過多な日常

シオタです。「しょっぱい自分が、塩分過多な毎日をどう過ごし、いかに楽しく生きていくか」がテーマです

北北西に進路を取れ!

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ヨーソロー!

 

大きな掛け声が聞こえる。

船乗り達の掛け声だ。

皆で声を合わせて帆船を進める。

中央のマストに張られた帆は風を受けて大きく膨らんでいる。

その帆にはこの船と乗組員達をイメージ化した印が描かれている。

大きなキャプテンハットを被り、片目に黒い眼帯をした、大きなネズミの画だ。

乗組員が力を合わせて大海原を進むこの船には50名程度の船員が乗っている。

 

最近、この近隣の海で名を上げているこの海賊団は旗印の通り『ビッグマウス海賊団』と呼ばれている。

この海賊団の船長はとても大きな体をした屈強な男。

いかにも腕力も強そうだ。

しかし、何より頭が切れるし勇敢だ。

他の海賊団との戦では、この船長が常に先陣を切って敵船に乗り込み、どんなに多勢に無勢でも、腕力と知力であっという間に敵を降伏させてしまう。

そして、それを支える3人の幹部たち。

この幹部たちが他の船員に睨みを効かせて、船長の不在時にも船内の統率をとっている事で、この海賊団がメキメキと力をつけて、近年急激に勢いを増している。

 

この海賊団には最近入った船員がいた。

とある港町でこの船に拾われた彼女は、とにかくよく働いた。

その働きぶりは他の船員たちがあきれるほどだ。

彼女の口癖は「私なんて何にもできないから。拾ってもらったし恩返ししなくちゃ」。

けなげで働き者の彼女がこの船の中で頭角を現すのにはそれほど時間は必要なかった。

そして、腕っぷしも強かった。

喧嘩をふっかけてくる荒くれ者達をいとも簡単にねじ伏せた。

そんな彼女なので、あっという間に、幹部のすぐ次のポジションに上り詰めた。

 

3人の幹部は、急激に登用された彼女を一見かわいがりつつも疎ましく思っていた。

彼女にとってそれは苦労だったけど、何よりも彼女が苦労だと思ったのは、他の船員たちに指示して行う船の操縦だ。

もちろん、舵取りは船長の仕事だけど、船長不在時には彼女にその役回りが回ってきた。彼女にはその理由はわからなかったが、どうやら3人の幹部は船長から舵取りをするなと言われているようだった。そして彼女の舵取りは船長の次に巧かった。

 

彼女が、他の船員に指示を出すと、船員たちは一生懸命に言われた作業に取り掛かるが、いつも肝心なところで何人かが途中でどこかに行ってしまう。

彼女がその理由を問いただすといつもこう答えるのだ。

「いや、あっちに好物があったもんで」

彼女には意味不明の回答が返ってくるのだ。

 

そんなある日の航海中に海賊団は大きな嵐に見舞われた。

甲板の上は高波が襲い、波に揺られた勢いで船底が岩にぶつかってしまった。

幸い、小さな穴が開いただけで済んだ。

でも、そこからひっきりなしに海水が侵入してくる。一大事だ。

今回も船長は戦に行ってしまって不在、3人の幹部はヒステリックにそこらへんにいる船員たちにワーワー言っていて事態の収束は見込めない。

 

「私が指示を出すしかない」

そう思って、彼女はてきぱきと他の船員たちを幾つかのグループに分けて指示を出す。

あるチームは水を掻き出す作業、あるチームは折れたマストの補修、あるチームは船底の穴をふさぐ作業、あるチームはオールで船を漕ぐ。

そんなこんなで、なんとか船は沈没を免れた。

でも、応急処置しかできていないので修復作業の為に最寄の港に寄る必要があるようだ。

 

そして、1週間後に修理が完了した。

と、同時に、船員たちが港町から集まってきて船に乗り込み始めた。

その時、彼女は船に乗ることをためらった。

この1週間を港町で過ごしたことで気づいてしまった。

あの船で一緒に過ごしてたいた船員たちが、みんなが実は大きなネズミだった事を。

 

そういえば、あの時「好物があっちにあるから」と言っていた船員が指した方向はチーズが置いてある倉庫だった。

そういえば、あの嵐の夜になかなか船底の穴がふさがらなかったのは、船員たちが穴を塞ぎながら、つい板を齧ってしまっていたからだった。

あの時は、忙しくて「気のせいかな?」と思っていたけど、どうやらそうでもなかったようだ。

そして、今、船に乗り込んでいる彼らを観察していると、統率が取れていると思っていたのは、3人のいや3匹の幹部の前だけであって、それ以外の場所では各々が好き勝手に行動している。それも、興味がわいたらそっちへふらふら、何かが目に入ったらそっちへふらふら、こんなので大海原へ大航海なんてとてもじゃないけどできやしない。

 

一度冷静にみつめてしまうと、もう、あの頃の視点には戻れない。

体が大きいだけの大ネズミの船員たちと一緒に人間である私が冒険をするなんて、ちょっと難しかったんだと思う。そりゃ、チーズの方が大事だよ。食欲に抗えるわけないもん。

船長は、勇敢で強くて賢い人間だったけど、結局いつも一人で戦いに行っていたのであまり会う機会は無かったなあ。でも、拾ってくれた船長には今でもとても感謝している。

でも、私はここでこの船を降りる事に決めた。

3匹の幹部にそう伝えると、3匹は笑いを堪えきれないといった様子で、顔を覆い隠しながらさも泣き顔を隠しているという様子で「がんばって」と声をかけてくれた。

 

さあ、これからは自由な航海の始まりだ。

なんの旗印も無いけれど、それもまた自由の証かもしれない。

とは言え、ビッグマウス海賊団のおかげで、操舵術や航海術、その他にも剣術や格闘術、料理術も身に付けた。これで一人でも冒険をしていける。

あとはお互いに信頼できて、足を引っ張り合わないような航海をしていきたい。

 

まずは、伝説の財宝を手に入れる為の大冒険に一緒に繰り出せる仲間を見つける旅に出よう。

子どもの頃、昔話で聞いた、あの一つなぎの財宝を手にしたという海賊王が、最初の頃にしていたと言われている冒険みたいに。

 

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