この世界の文脈を切り取ってみる
「自分は、一体あの人の為に何ができたんだろうと思うと…」
そう言って泣き出したのは、新人の女性社員Aさん。
これは、俺と同じく中間管理職としてウチの会社で活躍するMさんが行った面談の中で出てきた話だ。
この台詞だけ聞くと、何かの美談のように聞こえるが、実際にはそんな話ではないのだ。
Aさんが話していたのは、最新人のT君についてだ。T君に対する周囲の女性社員達の態度がAさんから見ると、まるで"いじめ"のように見えるらしいのだ。その女性社員達の関わりに対して自分が何かできなかったのかというAさんの自責の念から出たのが冒頭の台詞らしい。
だけど、実際には"いじめ"の事実は無い。T君は周りにいる女性社員達を含めた先輩達に心から感謝しているのだ。それは、日頃からの彼の言動と先輩達を慕っている様子から見てとれるのだ。もちろん、T君との面談でもそういう話が出てきたそうだ。
Aさんが冒頭の台詞を言った後、Mさんがこう聞いた。
Mさん:「T君が、いじめを受けてるって言ってたの?」
Aさん:「いえ、そうは言ってないです。ただ、私がそう思ってるんです」
この世界には、『悲劇のヒロイン』『悲劇のヒーロー』に成りたい人がいる。自分以外の誰かが、どんな役回りで悩んでいようともそんな事は一切関係なく、ただひたすら自分だけが"世界の主役"でいることだけが大切な人達が大勢いる。
その為なら、存在しないはずの可哀想な人も、存在しないはずの酷いことをする人達も、あっという間に産み出すことができるのだ。
"主役"だらけの世界は生きづらい。
皆が"主人公"の世界は、もっと、楽しいんじゃないのかな。