弱り目に祟り目からの大逆転
今日から通常営業開始の日だ。
また日常が始まった。
そんな日常のストレスを解消するために、仕事終わりにジムへ行った。
ジムのロッカールームでトレーニングウェアに着替え、いざジムエリアへ向かう。
っと、その前にちょっと用足しをしてから行こうと、トイレへ向かった。
トレーニングウェアのズボンの結ばれている紐をほどく 為に引っ張った。
すると、
「ブチッ」という音とともに、紐が千切れた。
と同時に、ズボンが下がってきた。
俺は、トレーニングウェアのズボンには、いわゆる短パンと呼ばれるモノを使用している。そして、その短パンは動きやすいようにオーバーサイズのモノを着用しているので、ウエストは紐を結んで下がらないように止めているのだ。
短パンがオーバーサイズなので、その下にはいつもスパッツをはいているが、意図せずズボンが下がってきたので、慌ててトイレの個室に入った。
とりあえず現状確認だ。
短パンを脱いで、千切れた紐を確認する。
どうやら、紐が1/3程度千切れてしまったようで修復は不可能だ。
ならば安全ピンか何かで止める事はできないだろうかと思ったがもちろんそんなモノは持っていない。
「じゃあ、不本意だけど、下にはいてるスパッツでトレーニングするしかないかな」そう考えてスパッツを一旦脱いで確認すると、なんと、生地の一部分が劣化によって極端に薄くなってしまっていた。そう、透ける程の薄さだ。しかも、お尻の部分が。
これではスパッツだけでトレーニングするわけにもいかない。
そして、今日に限って着替えの予備は持ってきていない。
かと言って、この状態でジムのフロントまで行って助けを求めるのもかなり恥ずかしい。
さてどうするか?
じゃあ、今日はせっかくきたけどトレーニングしないで帰るか?
いや、それだけは何とか回避したい。
じゃあ、フロントに助けを求めて、レンタルのウェア借りるか?
うーん、こんな事でお金を使うのもバカらしい気がする。
ここまで考えて、思い付いた。
「ずり下がるズボンを止めるモノあるじゃん!」
そして、トレーニンググッズを入れてジムエリアに持ち込んでいるバッグを漁った。
そうなのだ。
この中に、ズボンがずり下がるのを止める為の道具である『ベルト』が入っていたのだ。
そのベルトは、正式名称を『ウエイトベルト』と言う。
本来はズボンを止める為に使うものではない。
重たいモノを持ち上げる際などに、腹圧を高めて、パフォーマンス向上を狙いつつ、腰の怪我を防止するのに使うものだ。
だけど、ずり下がるズボンを止める為に使う事もできるのだ。
こんな事を思い付いたので、早速トイレの個室内で着用してみた。
すると、さすがのウエイトベルトの締め付け具合と幅の広さで、俺のオーバーサイズの短パンがしっかり良い位置で止まってずり下がらないのだ。
その場で屈伸運動をしてみるも、安定感抜群。そして、ベルトの装着感は当然ながら運動への支障は無い。
完璧だ。
紐が切れてからここまでで、実に3分程度の出来事だ。
そして、そのまま今日のトレーニングは滞りなく終了した。
というか、いつもよりも調子が良く、重量を更新する事ができた。
目的の為に、ありもので何とかする。
これぞ、まさにブリコラージュだ。
我ながら、素晴らしい機転の利かせ方だった。そして、結果オーライ。
もし、トレーニング前にズボンの紐が切れてズボンが下がってしまって困るという状況に陥ったら、この俺の体験談を思い出して下さい。
もちろん、そんな限定的でとても悲しい場面に遭遇する人が、この世界の中で、俺以外にいるのなら、なんだけど。